判を押していた。

「これで、契約完了です」

 目の前に広げられた羊皮紙には見たことのない文字が並んでいる。まるで記号のような文字。

 ――これ、何語なんだろう……? 

 なにが書かれているのか凜子にはまったくわからない。しかし、凜子はその羊皮紙に判を押していた。

 ――ええと。契約書……って言ってたんだっけ? それはなんの? いったいなんの契約書なんだっけ――

「ありがとうございます」

 微笑む美しい男性。すらりとした長身で、女性かと見まごうような中性的な顔立ち。年齢はおそらく二十代前半。艶やかな髪は不思議な銀色をしていて、腰のあたりまで長さがあった。髪と同じ銀色の瞳、長いまつ毛も銀色をしていた。そして、頭には――

 ――角……?

 羊のような巻き角があった。

 ――なんだこりゃ? なんで角なんかつけてんの? ずいぶん変わった人だなあ……

 服装は、ヨーロッパの民族衣装のような衣服を身にまとっていた。手首には銀のバングルをしている。

「凜子さん。これから、よろしくお願いします」

 耳に心地よい深みのある穏やかな声。

 ――「よろしく」? なにを「よろしくお願いします」なの……?

 そしてここはいったいどこなのだろう、と凜子は思う。大きな窓から満月が見える。

 ――月。月の光のような銀色の髪……ほんとに、とても、綺麗な人――

 判を手にしたまま、魔法をかけられたように凜子は立ち尽くしていた。

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