「誰もいない世界」




言葉は触れられないのに
触れたら血が滲むように痛くて

誰かの手の温もりは それだけで
とても冷たかったから

お日様の光の方が温かくて
包み込むようで 何よりも優しくて

雨や風の音は それだけで
夜の眠りのように 安らかに触れる

言葉なんて要らない

言葉が傷つけていくだけでしかないのなら
言葉なんて要らない

この世界には それだけでいい





雨は晴れたら終わってしまう
光は夜になったら見えなくて
風は声にかき消されてしまう

許されなくて
逃げ込んだ砂場は
だから世界の果てのようだった

砂をすくい取って 指の隙間から零れて
手のひらからさらさらと 解けていくのは
心だったのかもしれない

握って 零れて またすくい取って
それもまた落として

手が汚れていくほど 砂と体温は近づいていく
冷たかった砂は もう手みたいに温かい

言葉はそこにないのに
生きていくことを許してくれるのは
いつだって言葉のない世界だった
©Daichi Ishii Office, LLC.