二冊の雑誌と じれったい書店員



 そう。僕はその時、リアルサーフをスコラで隠してレジに向かった。


 スコラの特集は 『 パンチラ食い込みベスト50 』


 普通、隠すならそっちだろう。

 けど、その時の僕の心理としては、爽やかな装丁のサーフィン雑誌が、眩しすぎるくらいに気恥ずかしく、とにかくGOROでも何でもいいから、僕らの薄汚れた欲望の権化であり、なおかつ、気の置けない友人のようでもある馴染みのソレで、とりあえず隠してしまいたかったのだ。


 会計コーナーに素早く目を走らせる。

 二つのレジには、それぞれ若い女性店員が立っていた。

 僕はその二人のうち、いかにも当たり障りの無さそうな、黒髪を後ろにひっつめた銀縁メガネの女の子の方に進み、その二冊をつっけんどんに渡した。


「いらっしゃいませ」


 機械的な硬い声と、バーコードを通す音。


「1,300円でございます」


 去年、消費税が3パーセントから5パーセントに上がったせいで、雑誌の値段がまた少し上がった。一日に1,000円以上の出費は痛い。

 けど、スコラの裏特集 『この夏、ボクはこうしてオトナになった』 は、もしかしたら今後、来たるべき僕のその日に役立つだろうから、無駄使いではないはずだ。


 僕は黙ってチノパンから二つ折り財布を取り出し、マジックテープをバリバリ開いて、千円札を二枚、カウンターのコイントレーの中に置いた。

 銀縁メガネの書店員は紙幣を取り上げ、不器用そうに太目の小指と薬指に挟んで、


「 せん、にせん」


 と声に出し、もう片方の指で弾くような音を立てて数えた。


「2,000円のお預かりでございます」


 その通り。

 正しい金銭授受が、彼女のペースでゆったり進む。

 でも、できれば早くその二冊を紙袋に入れて欲しいものだ。

 マニュアル通りの接客は、時として僕らを苛立たせる。


「700円のお返しでごじゃいます」


 僕は苦虫を噛みつぶしたように口元を歪め、トレーに綺麗に並べられた3枚の小銭を拾ってそれらを素早く財布に入れた。

 いくら慣れていないとしても、いきなり『 ごじゃいます 』はないだろう。

 笑いをこらえ、聞き流す客の身にもなってほしい。夏休みの学生バイトか?

 そして彼女のむっちりと太い指は、二冊の雑誌をトントン、とカウンターに立てたまま、なかなか袋に入れようとしない。

 何やってんだよ?

 僕のイラつきがピークに達したその時。



「やっぱりあのウワサ、ホントだったんだ」



 乱れた彼女の語尾に続いて、突然マニュアルが破られた。



  ウワサ?



 僕は、止まったままの彼女の手元から、ゆっくりと視線を上げていった。


「春田君、お久しぶり」


 さっきのフロアーとは比べ物にならないほど、静かで穏やかなBGMの流れる、ここは熊笹書店。

 客の姿もまばらで、エアコンの冷気が身を切るようだ。



 いつもと違う事をすると、

 いつもと違う出会いがある。



 僕が望む望まないは、さておき。 








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