写真の裏に 残る言葉



『近づきたい あなたの匂いが 私の髪に移るほど』



それは、
松本さんのピンク色の長財布に入っていた、
写真の裏に書かれていた言葉だ。

写真には、顔が黒く日焼けし、髪の毛が金色の、
いかにも頭の悪そうな半裸の男の横で、
ガン黒メイクの松本さんが肩を抱かれ、
ぎこちない笑みを浮かべて写っていた。
その、およそ彼女らしからぬ笑顔に、
ひどく違和感を感じたのを覚えている。

そして、
その詩のような言葉を書いたのが、
はたして松本さんなのかどうなのか。

僕には今でも分からない。

なぜかというと、松本さんは僕の幼馴染みではあったけれど、
中学生になって以降、彼女が字を書いているのを見た記憶が無かったから。

青いボールペンの、震えるようなか細い字。

それは、
写真の中の笑顔と同じく、
僕の記憶にある彼女のイメージとは、
全くかけ離れたものだった。


その松本さんは、20才の時、海で死んだ。


溺死だった。


それは、
僕と彼女が幼馴染みという関係を終わりにして、
次の日からは恋人同士になろうって約束をした後の出来事だった。


そして


その日、彼女を海に連れて行ったのは僕だった。












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