食い物は命じゃ

「食い物は命じゃ。生きる為の糧を闇で売り買いの何処が悪い。どうせ弱いもんから米巻き上げて、飯屋にでも売り払う算段じゃろ。検事の中に闇米を食わん奴がおったら此処に連れてこいや。したら全員の勾留を認めてやるわ。昨日今日に始まった闇市じゃねえんだ、小遣い欲しさの公安に無理矢理押し付けられた取り締まりと違うんかい。

 昨日まで大日本帝国万歳言うとった特高がじゃ、今日にはアメリカの後押しもろて返り咲いたかと思たら、今度は赤狩りじゃ言うて見境なく気に入らんかった者を殴る蹴る。彼奴等がやっとるのは戦の最中と全く同じじゃ、なーんも変わっとらん。

 やつらに捕まって無傷でここに連れて来られた者がおったか? 臭い物に蓋するしかでけへん特高くずれに乗っ取られてからに、御前等見とるとな、負け犬がマッカーサーに尻尾振っとるようで無性に腹が立ってくるんじゃい。

 最も、そのマッカーサーの御蔭でわしも偉い口きけるようになったんやけどな。話戻そか。

 御前、何年検察やっとるんじゃ。配給しか食わんでいて、どれだけの者が死んで行った。闇米があるんでわしら生きていけるんじゃろ。二十人のおばちゃんから米取り上げてしもたら、何人が腹すかせたまま一晩過ごさなならん。どれだけの子供が食えんまま飢え死にせなならんか考えてみいや。ひもじいんが涙も出ん程辛いのは、御前さんならよう知っとろう。

 小言を言うてんのと違うで、見逃してやってくださいと頼んどるんじゃ。ほれ、このとおり頭も下げたるわ。これだけ言うても人の頼みよう聞かんで、おばちゃんら捕まえる騒ぐんなら、御前は鬼じゃ。地獄で人の肉食ろてる鬼と同じやぞ。

 闇米に生かしてもろときながら、同じ闇米を食って生き延びようとしてるもんを、逮捕せにゃならん理屈が御前には分かる言うんかい。令状当番のわしに、判事のわしに人殺しの手伝いせえっちゅうんかい。

 他のことなら少しいは融通効かせてやってもいいがの、いくら御前が高校ん時の後輩でも、こればっかりは一歩も譲れんわ。なんぼ法律がそうなっとる言うても、わしがいかん言うたらいかんのじゃ。ボゲ!

 検察なら生きるにイッパイゝのおばちゃん捕まえる前に、やらにゃならんことが山ほどあるじゃろ。本当にとっ捕まえにゃならん奴等がぎょうさんおるやろ。違うか? ここでこんな暇潰ししとらんと、あいつら捕まえて来いや。わしがしっかり御仕置したるから。

 今度つまらんことでわしん所に来たら、容赦なしに御前の死刑判決出したるからな、よう覚えとけや」

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