夜と珈琲に溶ける

夜に私の存在を証明するのは月明かりではない
醜く廃れたこの姿を浮かび上がらせるのはスイッチ一つで付く照明
鏡を見る勇気はない

身に付けていた鎧をむしりとり、一人の自分になる
鎧を脱ぎ捨てたわたしは何者でもない
何者にもなる必要がない

わたしは電気ポットに水を入れ、お湯が湧くまでの時間をただポットを眺めて待つ
勢い良く喚くポットはすぐにカチッという音で止まる
なんて利口なんだ

安物のスティック珈琲とお湯をコップの中で混ぜる
混ぜきらない塊が憎たらしい

わたしは電気を消す
月明かりは闇に勝てない
自分を証明することで精一杯な月がわたしを照らすことはない

月を見上げながら珈琲を口に含む
しつこい苦みが口に広がる
今日の疲れが苦みに溶けていく
そして 飲み込む
なんども なんども 飲み込む
吐き出せない苦み 底にたまった塊 飲み込むしかない

闇に輪郭を溶かして飲み込むしかない今日の終わり
夜と珈琲に今日を溶かしてさようなら
©CRUNCH MAGAZINE