19 イスラエル

写真はイスラエルの壁

最後にやはりこの国について触れなければならないでしょう。

【イスラエル】首都エルサレム・人口800万

【シオニズム】
 ナチスドイツのホロコーストを知らない人はないでしょう。ドイツは極端ですが、ヨーロッパ(キリスト教国)では程度の差こそあれ、ユダヤ人は差別、排斥されていました。モーゼス・ヘスは1862年、反ユダヤ主義への解決策としてユダヤ人の国家を築くべきだと訴えました(世俗シオニズム)。これに呼応して東ヨーロッパからユダヤ人がオスマン帝国支配下のパレスティナに移住を始めます(土地を買って入植という形をとります)。
 
 後にシオニズム運動を主導していくテオドール・ヘルツルは同化主義者でしたが、ユダヤ人が冤罪で逮捕された『ドレフュス事件』を新聞記者として取材し、ユダヤ人に対する根深い差別に衝撃を受け、民族主義者へと転じます。1897年にはスイスのバーゼルで第1回シオニスト会議が開催され、世界シオニスト機構が設立されます。ヘルツルは「ユダヤ人国家」の候補地としては、必ずしもパレスティナにこだわってはおらず、初期にはアルゼンチンやウガンダも挙がっていましたが、宗教シオニズムの影響で「シオン無きシオニズム」はあり得ないとされ、パレスティナ以外の選択肢は存在しなくなりました。

 オスマン帝国崩壊後、イギリス委任統治領パレスチナとなっての2枚舌外交の件は先に書きました。第二次世界大戦が始まり、ナチスのホロコーストがユダヤ人にとって、パレスティナへの避難が緊急を要する課題になります。イスラエル建国とアラブ諸国との5次にわたる中東戦争、その後の止まない紛争にも触れました。一瞬光明が見えるかに思われた『オスロ合意』も両者の過激派によって、反故にされて、今の現状があります。

 アメリカ合衆国は建国当初から最大の「盟友」であり、「特別な関係」であることは有名であります。イスラームの反米主義はこれに根付くところが多いのです。イスラエルの最大の貿易相手国はアメリカであります。イスラエルの経済発展においてアメリカの経済支援が果たした役目は大きいのです。中東紛争にアメリカは調停、介入しますが、いつもイスラエル寄りで纏まりません。
 アメリカのイスラエルよりは、アメリカのユダヤ資本のバックアップが大きいのです。かつて、大統領を務めたトルーマンは「ユダヤは票になるが、アラブはならない」と申しています。

 イスラエルは核を持っていることは肯定も否定もしませんが、フランスの支援で持っていることは自明であります。アメリカはイランの核疑惑にはうるさいのですが、イスラエルには見て見ないふりです。親米国でも、イスラーム教徒たちはアメリカを全然信用していません。

【イスラエル経済】
 農業は厳しい環境ながら、食糧のほとんどを自給でき、一部輸出までする農業国であります。ダイヤモンド産業はイスラエルに重要な位置を占めます。研磨ダイヤモンドの輸出額はイスラエルの総輸出額のうち約四分の一を占めています。
 また兵器産業も経済に大きな影響を持っています。武器の輸出額では世界4位であるとされています。科学研究の水準が非常に高く、専門資格を持った人材資源が豊富であり、科学技術の研究開発に注がれる資金の額は、2007年度のデータではGDPとの比率でみると世界1位であるとされる科学立国でもあります。
 恵まれない自然環境、相次ぐ戦乱の中で築き上げてきた、懸命の国づくりは認めなければなりません。だからこそ、パレスティナの自立、国家建設に協力する道を選択するのがイスラエルにとっても最良の選択のように思えるのです。オスロ合意まで、ともかく戻るべきだと、私は考えます。

 イスラエルはユダヤ人だけの国家ではありません。アラブ人も国民として20%(160万)を占めています。近年一部のイスラエル人がアラブ人を襲撃する事件も起きて、亀裂が深まっています。
イスラエルの政党は左派労働党と右派のリクードが主政党ですが、今の政権はリクードが担っています。首相のベンヤミン・ネタニヤフは「イスラエルはアラブ人との共存は不可能でユダヤ人だけの国家でいい」と国会で演説しています。オスロ合意を取り付けたラビン元首相(暗殺される)は労働党でした。右派が台頭してきたのにはやはり、ハマースなどのパレスティナ過激派のテロや攻撃が影響していると思われます。長年の双方の憎悪の応酬は簡単に融けそうにありません。

 国家を持たなかったことにより、600万人のユダヤ人が殺されたホロコーストの教訓から、『イスラエルは全世界に同情されながら滅亡するよりも、全世界を敵に回して戦ってでも生き残る』ということを国是にしているとされる(手嶋龍一・佐藤優「インテリジェンス 武器なき戦争・幻冬舎新書)と読んだことがあります。
 マー、これほどの覚悟で建国しているという意思表示なのでしょうが、私は「だからこそ共存の道を求める」が正しいと思わずにいられません。

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