そして「転」(5,6章)。ここが最大の泣かせどころです。

受験半年前なのに模試の結果は「E」。
家ではほぼ寝ずに勉強しまくるさやかちゃんのストレスも限界に達します。
家と塾ではずーっと勉強して、学校で寝る…というライフスタイルになってしまうんですね。

そのため、先生たちの怒りを買い、母娘が学校に呼び出されてしまいます。
「おたくの娘さんは授業を全く聞かず熟睡しているが、どういうことですか」と。

もうさやかちゃんの学力は、学校の授業のレベルをはるかに上回っていたし、
そもそも学校の先生はさやかちゃんにハナから期待していないで「人間のクズ」呼ばわりしてたくせに、
都合の悪いことをすると、呼び出しはするんですね。
どうやら一貫校ゆえ、さやかちゃんが頑張って慶應に行くことより、
それなりの内申をとって大学へ内部進学してくれた方がありがたいみたいです。クソですね。

そしたらこの母がすごいんですね。
「さやかが今目標を持って頑張っているのは先生もご存知のはず。でも学校の先生は、さやかが慶應に行けると信じていない。でも塾の先生は信じて応援してくれている。だとしたらさやかが信じるべきは塾の先生ですよね。今この子は学校しか寝る場所が無いんです。大学への推薦は要りませんので、なんとか大目にみてもらえませんか」
と言うんですね。

学校の先生としては当然、体面上「ハイ、寝てていいですよ」とは言えないんだけど、
粘りに粘った母は、先生を説得することに成功するんですよ。

ここで、まず、泣いたね、私は。
学歴の権化たる一貫校で干されたさやかちゃんを、
学歴なんか信じてない母が、守るんですよ。
ただただ、さやかちゃんの目標である「慶應に行く」という夢を応援するために。

一体どっちが教育者として優れてるのかは、一目瞭然だよね……!!
良識とか体面とか規律とかを重んじて四角四面の対応しかとれない学校がマジクソに見えるし、
それに対して、恥もプライドもかなぐり捨てて、一見常識外れともとれるお願いを粘り強く続ける母の素晴らしさが際立ちます。

あと、もう一つ言い忘れてた大事なファクターがあって。
さやかちゃんの友達です。
普通、ギャル仲間の一人が急に「慶應行く」とか言ってガリ勉始めたら、
「何言ってんの?!」と言ってハブったり、勉強の邪魔したり、遊びの誘惑をしたりすると思うのですが。
彼女らは、「さやかが慶應なんてウケる~! でもなんか本気で頑張ってるし、応援しよう」というスタンスをとってくれるんです。

だから、授業中爆睡するさやかちゃんを注意する先生がいると、かばってくれるんですよ。
「さやかは今頑張ってるの! だから寝かせてあげて」って。

うおー。ここでまたシブサワ号泣。
素敵なお母さんに育てられて、友達に信頼される子に育ったさやかちゃんだからこそ、
こうやって周囲に応援してもらえたんでしょう。
普通だったらやっかまれて四面楚歌になってもおかしくない状況だよ。本当に素晴らしいね。
そして、さやかちゃん自身も「みんなが応援してくれるんだから、絶対に慶應に受からねば」と思い直し、
一度は諦めかけた目標をを再び強く見据えていくことになります。

見事過ぎる「転」である。

はい、そしてまた「結」で泣けます(7章)。

見事さやかちゃんが慶應に合格することによって、
対立項「母」と「父」の間に和解が生じるんです。
母の教育方針を信じられず、さやかちゃんの受験勉強の応援を一切しなかった父が、
ものすごく頑張るさやかちゃんを見続けることで、受験日直前頃から変わり始め、
そして合格をきっかけに、母と娘を認めるんですね。
つうか今までの厳格っぷりはどこへやら、
「僕野球やってるでしょ? 子供が慶應に入るのが夢だったんですよ~!」
とめちゃめちゃミーハーに喜びます。可愛いな笑

ともかく、さやかちゃんが頑張ったことで、バラバラだった家族がひとつになったのです!

ちなみにもう一つの対立項「塾」と「学校」は最後まで和解しません。(そもそも直接対立してないけど)
「お前が慶應に受かったら全裸で逆立ちで校庭一周してやる」とのたまった学校の先生は、
さやかちゃんが合格を報告すると「ウソだろ?」と言って立ち去ってしまったそうです。クソだね。


■まとめ 受験本の体をとっているからこそ「アンチ学歴」というメッセージを伝えられる

はい、この本の何が素晴らしいかって、
一見受験戦争社会におもねるようなタイトルをつけておきながら、実はテーマは
「大事なのは学歴じゃない。肩書きでも規律でも体面でもない。
何かを一生懸命頑張ることこそ素晴らしいし、周囲に影響を与えられる」
ということなんですね。
たまたま「頑張ったこと」が受験勉強だっただけなの。

でも、たまたま頑張ったことが受験勉強だったからこそ、
学歴社会の権化たるクソ教師どもを見返すことが出来たし、
学歴コンプの父と和解することもできたんだ。

そして、この本の主たる購買層と思われる(?)、
「慶應」と「ギャル」の文字面のギャップに興味を惹かれて食らいついた
学歴ステレオタイプベッタベタ一般ピープルにも、
「大事なのは学歴じゃない」
というメッセージを伝えることが出来るんです。

つまり、最もこのメッセージを伝えたい相手めがけて飛び込むことが出来るのである!

すんばらしーーい!!

この、「敵におもねったフリをして懐に忍び込んでおいて、内側から崩す!」
みたいな技こそ、構造のなせる技だと思っています。

まじでノンフィクションの割にはよく出来過ぎてるぜ……! 

あと個人的には、学校がクソ過ぎたからこんなに泣けたんだと思うwww
「敵が強いこと」、これも、感動させるためには大事なのかもね。
物書きの私としてはとても勉強になりました。



本当、この本を読むと、「何かを頑張ろう」という気になります。

それから、それと同じくらい、「自分に子供が出来たら、坪井先生やさやかちゃんのお母さんのような子育てをしよう」と思います。しかし彼らのやりかたは、別に子育てじゃなくても部下や友達や全ての周囲の人にあてはめることができるものなので、万人が強く影響されるものだと思います。


最後に、アホギャルだったさやかちゃんの一番ウケたボケを引用して、この本の猛烈プッシュを終えることにしよう。

『「明日、紙の辞書を持ってきてね」
と先生が言うと
「わたし悪魔の辞書しか持ってない」
と言っていたさやかちゃん。
「?」
と思いつつも翌日の授業を迎えると、
「間違えた! 天使の辞書だった!」
と言ってきたさやかちゃんの手には、電子の辞書がありました……』




この子、やっぱ天才だと思うんですよね……!! 

~fin~
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