「ミアハさんミアハさん、この子の名付け親になってください!」
 舞台袖に入ると、私に声をかけようとするネムルを突き飛ばして、マチコが押しかけて来た。
「えー。……マチコ、最後のじゃんけん何で勝ったっけ」
「えーっと、グーです」
「じゃあグリコ」
「グリコー? もっと可愛いのがいいですよー」
「いいじゃん、強そうで。コだけマチコと一緒だし」
「グリコ、ねえ……」
 マチコはあんまり気に入った感じじゃなかったけど、腕の中ですやすや眠る赤ん坊を揺らしながら、変な節をつけてご機嫌な様子で歌いだした。
「グーリコちゃーん。グーリコちゃーん。この子は私の生きーがいー。この子は私のすーべーてー。この子は私の生きる意味ー」
 変な歌。でも、マチコはやけに幸せそうだ。私を拾ったママもこんな感じだったのかなあ……。「ミアハは私の生きる意味」。
「私には、生きる意味なんか無いけど……」
 そっとゴミを落とすようにポツリと床に向けて言うと、ネムルがそれを拾い上げた。
「僕ね、それが一番の才能だと思うんだよ、ミアハの」
「え?」
「普通の人は、何の価値が無くても、自分には生きる意味があると思ってるんだよ、無根拠にね。ミアハはそれが無いから、本当に生きる意味が無い人を躊躇無く殺せるんだよ。普通の人は、自分の身体が大事だから、他人の身体にもあんなにスパッと刀をぶち込むことは出来ない」
「そうなの? 私は気持ち良いくらいだけどね」
「それは、ミアハが『自分には生きる意味が無い』と思ってるからだよ」
「ふうん……哲学? 分かんないけど」
「ひぃぃやああ」
 マチコがすっとんきょうな悲鳴をあげた。
「どうしたの?」
「この子……、お、男の子……!」
 まるで怪獣の子だと分かったみたいに、マチコは服の脱げた赤ん坊を自分の身体から最大限に離して持って、今にも放り出さんばかりだ。がたがた震えて、青ざめている。女の子じゃないと嫌だったのか。
「大丈夫だよー、タヒネの子なんだからあ」
 ネムルが赤ん坊をひょいと抱きあげて、小さな生殖器をつまんでとってしまった。
「ほら、泣かない」
 赤ん坊は気がついてもいない様子だ。
「この子は選べる性別よりどりみどり。どうしても嫌なら、マチコが預かってたら?」
 ネムルは赤ん坊の生殖器をマチコの小指の隣にくっつけた。小指より小さいそれは、まるで六本目の指みたいだった。
「それとも、僕が育てるー?」
「それは、絶対、嫌です!!」
 マチコはネムルの腕から赤ん坊をぶんどった。
「分かりました。この子は男の子とか女の子とか言う前に、タヒネ様の子。ちゃんと私が育てます!」
 マチコは真っ赤な目でネムルを睨みつけながら赤ん坊を抱いた腕をぎゅーっと締め上げた。うーん、やっぱり、赤ん坊って可愛くない……、なんでみんなあんなもの欲しがるんだろう……と思いながら見ているとネムルが勘違いしたみたいに聞いてきた。
「ミアハも赤ちゃん欲しかったらいつでも手伝ってあげるよー?」
「要らない。気持ち悪い」
 タヒネと違って、私が残すのは多分死体の山だけだ。普通はその方が気持ち悪いんだろうけど、自分と似た顔の人間が自分が死んだ後にも生き残る方がずっと気持ち悪い。私は、生きる価値の無い人間を殺しまくって、死体の山を築いた後、一滴の血も残さずに死んでやろう。一代限りの美少女として。そうしたら、多分、伝説になる。

(了)
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