翌日の新聞にはでかでかと私の記事が載っていた。
「『死にたガール』が『生かせアイドル』へ」
「謎の路上アイドル、衝撃デビュー 公共のシンデレラへ大抜擢」
「『性菩薩』タヒネ公演を謎の美少女がジャック!! おっぱいビンタに客大興奮」
 ネムルがお堅い有名誌からスポーツ新聞、週刊誌までをもどさどさと楽屋の床に並べていく。
「すごいじゃーんミアハちゃん! 一面ばっかり! どれも可愛く写ってるよー! テレビもミアハちゃんでいっぱい!」
 ネムルは「ごろん!!」と言って床に寝っ転がると新聞を見比べながらテレビをザッピングしながらネットニュースをチェックしながらポテトチップスを貪り始めた。まるで早送りを見ているようなすごい情報処理速度だけどネムルの頭の中はどうなっているんだろう。
「別に私、小さい頃から新聞載ってるし……てか、なんであんたがいるのさ!!」
 ネムルの横に跪き、かいがいしい様子でポテチや新聞やリモコンをとっかえひっかえ差し出しているのはマチコだった。
「ミアハさんのニュースを知って、すっ飛んできちゃいました!」
「すっ飛んで来るったってあんた、留置所にいたんでしょ?」
「警察の方に粘り強く交渉しました! ミアハさんだけ釈放なんてずるいですもの!」
 なんて根性だ。粘り強く交渉……って、また脱いだんだろうか。ネムルがあくびをした。
「ふわーあ、朝からあまりにめんどくさいからもうOKしちゃったよー。というわけでマチコは僕のマネになったから、マネ同士、仲良くねー」
 ポテチを食べ終えたネムルにタイミング良くマチコがティッシュを差し出した。
「ハア……」
 やっとマチコとおさらば出来たと思ったら、コレか。しかしネムルの使用済ティッシュをゴミ箱にトスするマチコ、これ以上の幸せは無いって顔をしている。二日前は心中相手を探してたっていうのに(それは私もそうだけど)。まるで、「王子様」を見つけたみたい。あれ、でもマチコってタヒネのファンじゃなかったっけ……。
「結局、男かよ……」
「ハイハイ、じゃあこれからセンターの施設の案内するから、二人ともついてきてねー」
 ネムルはげっぷをして立ち上がった。
「タヒネは?」
「寝てるー。てかタヒネは公演以外の日は大体寝てるから、基本放置でいいよ」
「ふうん……」
「あ、ネムルさん待ってくださいー」
 部屋を出ようとするネムルの背中を慌てて追いかけるマチコはうきうきるんるんという感じでスキップして、ネムルの腕に飛びついた。ほとほとうざい。ネムルはハエが止まったくらいにしか思っていない様子で歩き出す。私だったらあんな顔面モンスターがマネージャーとしていっつも傍にいるなんてぞっとするけど、よくOKしたものだ。ネムルの精神がよく分からない。
 ネムルは廊下をすたすた進むとやたらと重そうな扉の前で立ち止まり、パスコードを入力すると私達に入るよう促した。
「ここはパーツ保管庫ね」
「うわー、寒い!」
 冷蔵庫を開けたような白いもやがおさまると、中の様子が見えて来た。図書館の閉架のように、背より高い棚が延々と組まれた、巨大な空間が広がっている。ただ棚におさめられているのは本ではなく、一本ずつ管理番号が書かれた透明ケースに入れられた腕や脚だった。
「最近、処理しても処理しても追いつかないくらいファンの貢ぎ物がすごいんだよねーとりあえずまだのやつはそこらへんにすっ転がしてある」
 ネムルが指した方には、剥き出しの手足が、まるで薪のようにうず高く積まれている。
「ひぃ……」
「まあここにあるのは大したことないやつ。要らないやつは審査してさっさと身体提供センターに回したいんだけど、その審査も追いつかない感じ。ミアハ級の美しいパーツはVIP保管庫に入れてる」
 これだけ手があれば性菩薩どころか千手観音にもなれるだろう、夥しいストックの量だ。
「み、貢ぎ物ってこんなに来るんですか……」
 貢がなくって良かった……、とマチコが呟いた。
「あと、ちんちんまんまんはこっちね」
 ネムルはこの部屋の更に奥にある小さめの扉を少し開き、中を見せた。トイレの個室くらいの、ちょうど人が一人入れそうな部屋の壁を、赤いびらびらがぎっしり埋め尽くしている。まるで人間の胃の中に飛び込んだみたいだ。
「ひえー……」
 ちらっと見ただけでもう十分になって、顔をそむけてしまった。絶対、この中には入りたくない。呪われそう。隣のマチコは青ざめている。「十八歳になったら女の子の大事なものをタヒネ様に献上するんです~」とか言ってたはずだけど。
「生殖器の貢ぎは圧倒的に女が多いね。まあ『姫』で使うから需要もあるんだけどさ。あ」
 ネムルは扉の隙間から手を突っ込むと、びらびらのひとつをつまみだした。
「これ、ミアハのやつ、下っ端から取り返しておいたけど、要る?」
「ギョエー!!」
 私より先にマチコが叫んだ。
「乙女の! それを! 素手で触らないでください!!」
「あーそう?」
 ネムルは大人しく元に戻した。
「それ、要らない。犬にでも食わせておいて」
 私はつっけんどんに言った。
「あれー、手足はあんなに欲しがってたのに、これはいいのか。まあ、日常生活に支障きたさないもんね。あ、一応、あの職権乱用ヘボ警官はとっちめといたからー。三日間メシ抜きの刑」
「ネムルさんさすがです! あんな警官は恥を知るべきです!」
 マチコはまたネムルの腕にとりすがった。女心がよく分からない。
「ちなみに男性器も奥に入ってるから、淋しくなったら、マチコ、勝手に使っていいよ」
「つっ、つか?!」
「びんよよーん」
 ひるむマチコの顔の前にネムルが左手を突き出した。その手は、よく見ると、指が六本あった。
「ギターの弦の数に合わせて一本増殖してみた。こーすると弾きやすいのよ。まあ、こういう使い方もあるってことで」
 そう言うとネムルは扉を閉めた。
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