そんな不安定な心のまま、翌日の高校の二者面談を迎えた。私は高三の春なのに進路についてノープランだった。でもやや投げやりに、
「私は大丈夫です。いつもみんなに助けてもらえるし、助けてもらえる才能があるから、これからも、大丈夫」
と言ったら先生は呆れてしまった。
「そんなこと言ったのは君が初めてだ。ちゃんと考えて自分の意見を言いなさい」
「ブスで才能の無い奴が進路進路言うんです。私は大丈夫」
「君に何の才能があるんだ。確かに君は美人だけど、美人だけじゃ食っていけないぞ」
「私は人間ができてるから大丈夫です。それが一番の才能です」
「人間ができてる奴が、クラスメイトをブスとか才能が無いとか言うか? 他の奴はちゃんと考えて進路決めて、頑張ってるんだぞ。そんな奴らをバカにするなんて、人間ができてないのはお前じゃないか」
「頑張ればいいってもんでもないじゃないですか」
「君は頑張ってもいないじゃないか。十七までに欠片も見つけられないなんて才能があるとは言えないよ」
「うるさい!!」
 前日の件で気が立っていた私はまたもや昨日と同じく右ストレート左ハイキックのツーコンボを繰り出してしまった。じんじんする足の甲から先生の本音が伝わって来た。先生も正直な人だった。「美人だけど救いようの無いバカだなこいつ」。
 私は泣きながら帰宅してママに掴みかかった。
「ママが言ってた才能って何?! 本当に人に愛されれば幸せになれるの?! 私やっぱりただのバカなんじゃないの?! 十七までこんなってヤバいんじゃないの?!」
 するとママは私の両肩に静かに手を置いて、この世の終わりのようなすごく怖い顔をしてこう言った。
「ミアハ、もし顔が中学のままで今も可愛かったらどう思う?」
 私は
「顔が可愛いのはやだ。苦しい」
と答えた。でもこの時点でうすうす分かっていた。前日のスカウトマンと、この日の先生。殴ったら同じ真実が返って来たから。
 私も泣いていたけどママも泣いていた。
「ミアハ、ごめんね。あなたを十八まで生かしたかった。お医者さんは、あなたの心の病気は十八までは不安定って言ってたの。それで、嘘を吐いたの。あと少しだけ嘘を吐いていたかったけど、吐ききれなかった、ごめんね」
 そう言ってママは納戸の奥に隠してあった鏡を取り出して私に渡した。
 果たして私は四年ぶりに自分の顔と対面したのだった。
 鏡の中にいたのは、どこぞの国のお姫様かというくらいの美少女だった。でも私の意志に合わせて瞬きして、口も動くのだから紛れも無く自分の顔だった。中学の時と同じ顔、でも遥かに磨きがかかって、今が旬とばかりに眩しいくらいに輝いていた。自分の顔を見なくなった私は顔の美醜の基準がよく分からなくなっていた。それでも、今まで見た可愛い子が全部束になっても敵わないくらいのとびきりの美少女だと断言できる顔が、そこに映っていた。
「ミアハが中二で自分の顔を切った時、傷は大したこと無くて、縫うほども無かったの。でも、心の傷が……。だからお医者さんと話し合って、あなたの顔が傷ついたという嘘を吐いてたの。ごめんね、ミアハ……」
 私は頭の中のビデオテープがキュルキュルと音を立てて急速に巻き戻るような眩暈を感じた。ということは、みんなが私に寄って来たのも、いろいろ助けてくれたのも、スカウトが来たのも全部ただ単に顔が可愛いからで、それを勘違いしてた私は「私の内面の力だ」って思い込んでて……。ということはやっぱりスカウトマンや先生の言ってた通り私は「美人だけど中身はからっぽ」なのだ。ああ四年間、私は何かものすごくまぬけなことをして来たんじゃないか。取り返しのつかない回り道をして、恥を晒してきたんじゃないか。身体中火傷したみたいにひりついて、のたうちまわるしかなかった。
「わああああ」
 恥ずかしさと怒りがないまぜになってママを殴りまくった。
「十八まで生きてどうするのさ! なんで? なんで死なせてくれなかったの?! 責任とって殺してくれようわあああああ」
 殴られ続けながらもママは声を張り上げて言った。
「ミアハ、あなたは可愛い。世界で一番可愛い。神様が作ったってくらい、可愛いんだよ」
「やだああ。スカウトのおっさんだって中身のクソさがテレビに映るって言ってたもん無理だああ。AVしか出れないって言ってたもんうわああ」
「ミアハ。ミアハ!!」
 いつもは殴られっぱなしのママが珍しく抵抗して、私の頬っぺたを両手で挟んで無理矢理正面を向かせた。
「ミアハ。十八まであなたを生かしたかった。でも、醜く整形するなんて出来なかった。いつかは自分の本来の姿を受け入れて、社会でやっていってほしかったから。ミアハ、持ってるものをいやいやして、無いものねだりしながら生きていけるほど世の中甘くないんだよ。あなたは、みんなが喉から手が出るくらい欲しくて仕方無いものを、もう持ってるんだよ」
「どーせ外見だけだもん! 中身空っぽだもん!!」
「そんなに拗ねてるなら、知らない。みんな、持ってるものを使って生きていくしかないんだから。AVだって、出たくても出れない人だっているんだよ。それしか才能が無いならそうするしか無いじゃない。もうすぐ十八なんだから、自分で考えなさい」
 ママはそれっきり私を置いて家を出てしまった。私は何度も何度も手首を切った。でもママは帰ってこなかった。
 
 血まみれで翌朝を迎えたけどちゃんと生きていた。切って分かったことは、私はずっと自分の顔が嫌なんじゃなくて、それに値しないゴミみたいな中身が嫌だったということ。だって中身のゴミさなんて、こそこそ生きてればそんなに取り沙汰されないのに、美少女過ぎる私はそれが許されないんだ。
 何日も学校を休んで、ママのいない家でぼーっとしたり、切ったりしてたけど、もう諦めた。十八歳になったら一度死ぬことにしよう。それを希望にして、あともう少しだけ生きよう。誕生日まであと一週間だ。

 私はそこまで書きつけて日記帳を閉じると、数日ぶりに学校へと向かった。
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