4 イマムラトモキとユー・キャン・ドゥー・イット本部長

2014.6.28

「……と言うわけで、ライバルが一人減ったってわけよ~」
シブサワレイは、ふかふかのソファに身を沈めながら、満悦そうに言った。
ここは南青山にある、HARENCHERS株式会社のオフィス。新設されたばかりのそのオフィスはそう広くないと言えどもシックで高級そうな家具でモノトーン調にまとめられており品が良く、ぐるりと見回したシブサワは社長の趣味が出てるなあと思った。
「ねえねえ、福利厚生のケーキとやらは出て来ないの~?」
そう呼びかけたシブサワの視線の先には、HARENCHERS株式会社CEOのイマムラトモキがおり、ただし下半身に何も身に着けていなかった。彼は先日、新オフィスの移転の際に家具を揃えた店でひっかけた店員の女と今まさにパコっているところだった。女は、シブサワの目の前にある自社製品のローテーブルに両手を突き、形の良い尻を突き出している。シブサワと目が合い、あえぎ声を漏らしながらも生真面目な様子で会釈する。
「君は社員ではない。よって福利厚生も無い」
一方、彼女を後ろから突くイマムラは尻から視線を動かさぬまま冷たい調子でそう言った。
「でも予選通過者じゃないかよー。ぶーぶー。VIPじゃないかよー。てか、コーヒーくらい出してくれたってよくなーい?」
上等なソファの生地の感触を味わいつくすように全身をこすりつけながら子供のようにだだをこねるシブサワを無視し、イマムラは「うっ」と短く呻いた。そしてしばし静止した後、股間から小さな袋を引き抜き、シブサワの眼前に突きつけた。
「……飲み物はこれしかないが」
「……ファック」
シブサワが中指を突き立てるとイマムラは静かにゴミ箱にそれを捨てに行った。それを見ながらシブサワは、「あ、でも飲んだら偏差値10くらいアップしたかもしれないな」とちょっと後悔した。
「で、用件は」
ティッシュで一物をふきとりながらイマムラが聞く。
「あ~、いきなり来て悪かったよ。パコリの最中にさ」
「いえ、見られてる方が興奮するんで大丈夫です~」
ストッキングをずり上げながらそう言った女はそそくさと身支度を整えると足早に部屋を去った。
「私がチャトレ宣言してから、私といまむがデキてるって噂は完全に消えて、あんたもパコりやすくなったんじゃない?」
「変わらないね。ユーザーとはやらないから」
「……それもそうか……」
いくらハレンチマガジンとは言え、CEOが自らそこでパコるわけもないか。噂になっちゃうし。
「で、外から調達してるってわけか」
「用件は何かと聞いている」
「お前もパンツ履けよ」
イマムラがおもむろに下着を装着するのを見届けると、シブサワは言った。
「要はさあ、さっき話した通りさあ、私は、サガワ君ともヤレなかった、というか、厳密にはヤレたけど死んじゃったわけじゃん。2位なのに。そしたら1位の私は誰とやればいいわけ? ゴミカスキモヤリモクとヤレばいいの? そんなザコとヤっても何の経験値にもならないよね? しかもまともなやつは1位の私にひるんで声もかけてこないクソサブカル草食奥手ばっかだし。ねえ、わたし、このままおばさんになっちゃうのかなあ? どうしよう?」
シブサワは喋りながら段々自分が涙目になっていくのを感じた。なんでだろう、もう、私って本当バカだ。面白いからという理由だけで考え無しにチャトレエッセイを始めて、ザコが寄って来る割に多くの常識的な人からはドン引かれる結果になって、唯一踏み込んでくれたサガワ君も殺してしまった。サガワ君のこと、本当は殺す必要なんて無かったんじゃないか。
「あなたは男と寝て経験値を稼ぎたいのか」
ズボンも履いたイマムラは聞いた。
「そう! わたしは、小説のネタになることをしたいの! で、私の小説と言ったらエロネタばっかりなんだから、私がエロの経験値を稼がないと小説もレベルアップしないって結論に至ったの! どう?」
湿った情を引きはがすかのように、シブサワは威勢よく吠えた。
「なるほど。でも、東大卒チャトレを名乗り始めた君は、東大卒でモテない、風俗嬢でモテない、ダブルモテない。一般の世界ではまずモテない。唯一その肩書きを面白がってくれるハレンチの世界もろくな出会いが無く、もううんざりしていると」
「あー!! モテないモテないうっさいよー!」
ついにシブサワの目から涙がこぼれた。
「でも、その通りだよー!」
ああ、私ってなんてバカ。シブサワはイマムラの前に転がり込むと額を床に擦りつけて土下座した。
「というわけでイマムラ君、男の子紹介してください!! 東大卒にもヒかない東大卒を!」
「断る」
「えー」
「紹介できるほどのスペックではない、君は。S級美女ならともかく」
「うわーん」
シブサワが泣き崩れたその時、
「涙を拭いて!」
突如、中年男性の者と思われるハリのある声が、オフィスに響き渡った。
「誰ですか? いきなり」
入口の方を見たイマムラは息を呑んだ。
「ユー・キャン・ドゥー・イット!」
そこには、白い歯を見せてサムアップするスーツ姿の男性が立っていた。彼の姿はシブサワも見覚えがあった、というか、{d}脳裏に思い浮かべたことがあった。{/d}
「『ユー・キャン・ドゥー・イット本部長!』」
イマムラとシブサワは声を合わせて叫んだ。彼はハレンチマガジンに投稿され絶賛を集めたサガワキョウイチの小説{link https://i.crunchers.jp/data/work/857}「シュトラーパゼムの穏やかな午後」{/link}の登場人物だ。そうとしか思えない。顔を見合わせた二人は
「『でも、なんで?』」
再び口を揃えてそう言った。
「サガワ死せども小説は死せず! ミス・シブサワ、君がサガワのちんこをねじり切り彼の死が確定した瞬間、彼の意識は君の呼び寄せた四次元空間に凝縮し、小説への執念という一番濃い思念が私という形に具現化したのだよ」
「えー何それ……」
い、意味が分からない……。あの「股ギロチン」にはそんな副作用というかオマケもあったのか……? 術の使い手のシブサワさえも本部長の意味不明な説明をうまく理解出来ない。
「ふむ、しかし、サガワ……すごいな……一人の人間を具現化出来るほど小説への思いが強かったとは」
イマムラが唸った。それは正直、シブサワも思ったところだった。そしてそんなサガワを殺したことに対して再び後悔の念が再びよぎったが、
「わたしの方がすごいじゃん! そいつを殺せたんだから!」
と喚き立てて後悔を振り切った。
「そう、ミス・シブサワ。あなたは私の生みの親なのです。あなたが父・サガワのちんこをねじり切ってくれたから私は生まれることが出来た。……まあ、親と言っても、私からしたら娘みたいな年頃のお嬢さんだがね」
と言ってユー・キャン・ドゥー・イット本部長はシブサワの手をとり、甲にキスをする。
「な、なんだよー」
それじゃあ私とサガワが結婚したみたいで嫌じゃんか、と思い至ったシブサワは赤面しながら手を振りほどく。しかし本部長はひるまずに続けた。
「ミス・シブサワ、お礼というにはささやかだけれど、今晩、空いてるかな?」
「えー、援助交際かつ近親相姦ですか? やだ」
「HAHAHAHAHA!」
本部長はでっぷりとした腹に盛大に声を響かせて豪快に笑った。
「そうではなくて。先ほど、『東大卒』『チャトレ』でダブルモテない、という話を、そちらのクレバーそうなボーイとしていたけれど、そんなあなたこそを待っている男性がたくさんいる場にお誘いしようと思うのです」
「ほえ……? 合コン?」
「ノーノー。合コンよりもアケスケで、婚活パーティよりも刺激的。宗教法人ハッピー・ライト・オーダー(HLO)の分科会、ハッピー・ハプニング・ソサエティ(HHS)へのお誘いです」
「ハッピー・ハプニング・ソサエティ?」
そりゃまた怪しいな、と思ったシブサワは眉をひそめた。
「あなたのように、知的で、性に大胆な女性を待っている男性は沢山いるのです。しかも、あなたはとても美しい。あなたはS級美女どころかトリプルSランク美女ですよ、ミス・シブサワ」
「……」
本部長に熱い瞳でじいっと見つめられたシブサワはしばし見つめ返した後、イマムラの顔色を窺った。イマムラの顔には特に何の表情も無かった。それを見てシブサワは無性にむかついた。引き止めねーのかい。
チ、もうヤケクソだわ、S級未満と言ったこいつへのアテツケで行動してやろう。
「行くよ、おじさま。あたしをモテモテワールドに連れてって~ん!」
シブサワは猫なで声で本部長に勢い良く飛びついた。
「オー、ウェルカム! あなたは今晩自分の真の魅力に気付くことになりますよ!」
本部長はがっしりとシブサワを抱きとめる。
「あんたも行く?」
本部長の肩越しに振り向いたシブサワがイマムラに聞いた。
「私はいいです。間に合っているので」
つくづく鼻につく野郎だな……。シブサワは「へん!」っと鼻をならすと、本部長の腕をとって「いきましょ♪」とはしゃいだ。
「イエスカモーン! ユー・キャン・ドゥー・イット!」
「イエーイ! アイ・キャン・ドゥー・セックス!!」

続く
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