1 渋澤怜とハレンチマガジンとイイネ・イイネ・ディスオーダー

2014.4.26

ハレンチマガジン!

ハレンチマガジンは、クリエイターワナビーのための承認欲求満たし合いクソ慣れ合いメディアです。スマートフォンやWebから、小説、エッセイ、ブログ、写真やイラストを投稿して、誰でも簡単にクリエイターを気取ることができます。
気になる異性が見つかったら、レビューやコメントなどのリアクションを気軽に返すことが出来、コミュニケーションが盛り上がります。
互いの作品を褒めて承認欲求を満たし合い、オフ会からのオフパコを目指すのも、ライバルの失敗を叩き合う仲間を見つけてつるむのも、運命の人に出会って浮かれるのも、エロネタと自撮りで釣ってる1位の女を叩くのも、全て使い方はあなた次第です。
今すぐハレンチマガジンに参加してみましょう!

「なんで一番ハレンチな私が一番パコれねーのかなあ~?」
 シブサワレイはパソコンの前でひとりごちて、キーボードに乗せた人差し指をトントンと神経質そうに鳴らした。
ディスプレイに映して出されているのは、小説投稿SNSサイト「ハレンチマガジン」の作家別ランキングページである。その1位に燦然と輝くのはシブサワであり、2位以下のユーザーと比べて文字通り桁違いのアクセス数を誇っていた。しかし、その割にはコメント、レビュー等、SNSらしいやりとりの数が他ユーザーに比べると皆無に等しく、あるとしてもアンチや短絡的なヤリモクだらけなのが特徴的であった。
「皆ようパコってるのになあ~……」
ハレンチマガジンのトップページにあらわれる「話題の記事」をサッと流すと、毎週のように組まれる週末のオフ会案内とそのレポート、ユーザー同士の他己紹介、交際報告、フェティッシュなコミュニティの活動紹介(尻教会って何だ)等が溢れていた。
もともとハレンチマガジンは、クリエイターを目指す若者がプロデビューまでの自尊心の下支えをする場として、第三次産業の振興をはかる政府のクールジャパン推進会議の補助金を支給されて始まったプロジェクトだった。しかしむしろこの場の居心地が良くてプロデビューとかどうでもよくなる若者が増殖、サイト内に安住して異性と出会い、交際、結婚までに至る者も多く現れたため、むしろ少子化対策プランから補助金がおりるようになった。確かに政府にとっても、クリエイターの夢を諦めきれずに身を固めるのを渋る若者(と言うには高年齢な独身男女)を増やすより、そちらの方が得策であると気付いたのだろう。
 そんなハレンチマガジンにおいて、シブサワの存在は異様であった。総合ランキング1位であるにも関わらず、オフ会にもコミュニティにも全く参加しない。ユーザー同士のコメント等のやりとりから親密度を計算して図示した相関図ページもあるのだが、網の目のように張り巡らされたユーザー同士の赤い線の絡み合い(赤い線はパコりを示す)からかなりの距離を置き、圧倒的な太字で書かれたシブサワの名が孤立していた(ユーザー名の文字の太さはそのユーザーの影響力を示す)。
 シブサワがこのサイトで1位になったのは、以前から他SNSサイトで地道に作り上げていたファンが流れ込んだこと、および「チャット嬢をやってみた」と題した扇情的なエッセイが大手ニュースサイトや2chからアクセス数を呼びこみ爆発的なヒットを飛ばしたことなどが理由だった。風俗ネタのエッセイ、下着姿の自撮り等々、エロエロな要素は誰よりもサービスしているし、だからこそ、実力でもぎとった1位の座を更に強固なものにして安住するに足ると考えているが、シブサワが不満なのは、それにも関わらず全然パコれない自分の現状だった。
 ……あるいは、こういったコメントに返事をすればパコれるのかもしれない。
「シブサワさんは、色っぽい! その美貌とスタイルの良さはズルすぎる! 編集長もメロメロになるでしょ、反則だよ! 僕もメロメロ!」
「失礼ですが、貴方は年齢は幾つくらいですか?」
 いやいや、プロフィールかエッセイを少し読めば年齢くらい分かるだろ。その手間さえかけずにプロフィールの写真につられて速攻メッセージを送って来るような輩とパコりたいと思うだろうか普通。いくらハレンチマガジンがクリエイターのためのコンテンツ投稿サイトという当初の試みから大幅に外れ、コンテンツなんぞただの話しかけるためだけの「エサ」、自己紹介的な意味しかもたない存在になり下がっているとしても、それに全く目もくれずにパコり狙い丸出しのメッセージを送って来る奴に連絡をとるほど私は落ちぶれていないつもりだ。
 それからこういうコメントも結構来る。
「なんで誰ともパコらないんですか? パコっても報告してないだけですか? でもオフ会全然来ませんよね? このサイトの趣旨、分かっていますか? 1位のあなたにはそれなりの責任があるんじゃないですか? 全然パコらない、オフ会にも来ないあなたが1位にのさばっていると、このサイト自体の信用度が下がるのです。ちゃんと責任果たしてください」
「シブサワさんが全然オフ会に来ないので、非実在説も流れだしてますよ。さあ、早く来て存在を証明してください!! でないと運営に連絡してしかるべき処置をとってもらいます」
 うっせー、存在してるわ。パコる気満々だわ。でもお前らみたいなクソどもとパコりてーと思うわけねーだろ! と、更に心が固くなってしまう。
「ハレンチマガジン自治委員会です。当委員会では月に1回以上のオフ会の参加を推奨しています。そろそろいかがでしょうか?」
 うっせー自治厨。ダイレクトメール送ってくんな。
「失礼ですがあなたのアイコンは本物ですか? 東大卒27歳の美女だなんて出来過ぎています。本当はブスだからオフ会来れないの?」
「実在してるならパコらせてください!」
 すみません貴方がたの前には永久に非実在まんこでいさせてください。
「ハレンチ内で有名人ぽくなってるからって調子乗らないでください」
「俺をフォローしろ!」
「俺にあてつける記事書いたな! 俺のことを書くならちゃんと名前出せ! そして名前の使用料を払え!」
 なんなんだこいつ。あてつけるほどお前に興味持ってねえよ。それと名前やらWeb上の公開発言の引用やらにいちいち許可とか使用料とか言い出す小者は一生引きだしの中に原稿と筆名しまっとけよと思う。
「何歳ですか? スリーサイズは?」
「彼氏ずっといないって本当?」
「今は小娘パワー全開で随分と羽振りが良いようですが、小娘こねくる浅知恵が強すぎると、おばさんになったときに貧しい精神の持ち主になりますよ!」
 はあ。何をおっしゃってるのかよく分からないが、おばさんが小娘に殺されることは私の方が百倍よく知ってるよ。
 更に胸糞悪いことに、このような突っ込みどころ満載のコメントの下に更にいくつものコメントがぶら下がり、慣れ合いの応酬を繰り広げているのだった。私の小説読んでる奴がこの中に何人いるんだろうか……。いや、読まなくてもいい、自分をダシにして盛り上がってもらえるだけでも大変ありがたいことだ、とシブサワ自身は考えていたが、ここまで小説そのものへの言及が少ないとさすがに閉口する。「小説がつまらない」「エロいだけで中身が無い」このようなアンチコメの方がまだずっとましである。
 他ユーザーとは桁違いのアクセスを叩きだしているにも関わらずまともなレビュー数が少ない、これは、ちゃんと読んでくれている人がほとんどいない、あるいは皆「タイトルと画像に釣られたけどやっぱりつまんなかったな」と思って無言で去っているということを意味しているのではないか……シブサワはそんな不安に駆られることもしばしばだった。
 そんな時シブサワの心を鎮めるのが、「@あなた」ページであった。数分前にこのページをのぞいた時よりさらにふぁぼが1件、採点が1件入っていることを確認し、シブサワは満悦の表情を浮かべる。そしてディスプレイを甘ったるい目で見つめながら、静かに下着を下ろす……。
「ああん、もっともっと、ふぁぼ……ふぁぼ……、ついてついてついてついてー! ああーっ!」
 F5キーと下半身にそれぞれ伸ばされた両手が激しい動きを繰り返す。
「もっと欲しいのー、もっともっと欲しいのー、ふぁぼ、ふぁぼ、あーっ」
と喘いだ彼女は
「ああん、ポイント付きレビュー!!」
と叫んだ後に果てた。
 そう、彼女は、テン年代の時代病「イイネ・イイネ・ディスオーダー」の罹患者なのだ。20~30代の若者の1割が発症すると言われているこの病は、SNSサイト使用に1日あたり10時間以上の時間を割いている者が認定され、その多くは、サイトを数分、ひどい時には数秒ごとに閲覧しないと激しいストレスに晒され、髪を抜きまくったり、奇声を発したり、道行く人のiPhoneを奪ってまでもインターネットに接続しようとするなど、あらゆる強硬策に出る。のぞみのふぁぼを得てエクスタシーに達するようなシブサワのような患者もいるが、稀で、多くの場合はふぁぼ数が不満な時に【拡散希望】の多発、体調不良ツイート、有限不実行ツイート(リストカットや自殺予告から、「俺はでかい夢を持っている」「○年後には◎◎を達成する」等の自己啓発系ツイートまで様々)、女子の場合は半裸自撮りのアップ等々を繰り返す、いわゆるふぁぼ乞食と化す。非常に厄介な病気なのだ。
 さて、賢者タイムを迎えたシブサワは、「自分はハレンチマガジンに向かないのではないか」と考え始めた。ハレンチ創設当初からのユーザーではあるものの、もはやクリエイターのための研鑽の場としては完全に形骸化したこの場にとどまるメリットはもはや感じられない。
「だって、私が欲しいのは彼氏でもない、セフレでもない、ワナビ同士の承認欲求満たし合いでもない。不特定多数の人の沢山のふぁぼだもの。つうか1位の私が自分より下の誰と絡んでも新しい発見とか得られねーじゃん」
下半身のみ丸出しの「くまのプーさんスタイル」のシブサワは椅子から立ち上がり、唐突に叫んだ。
「私が寝たいのは小説の神様だけ! でもそこに達するにはまだまだ人間とのセックスが足りないと思うんだ」
 おばさんになる前に私にはまだやっておかなきゃいけないことがある。それこそ、次に来る小娘に殺されるまでにね。肉が固くなる前に女の子にはやらなきゃいけないことが沢山あるのだ。
 賢者モードからの謎の崇高なハイテンションに達したシブサワはそのままiPhoneで何枚か自撮りを行った後、サービスカットをハレンチマガジンにアップし、一言コメントを書きつけた。
「ネタにしてもいい人セックスしましょう!」

 半日の間、このブログにはふぁぼもコメントもつかなかった。深夜近くなってから、一人の男からコメントがあった。
「セックスはともかく、一度会いませんか? シブサワさんのこと興味ありますし」
それがハレンチマガジン総合ランキング2位(当時)、人呼んで「西の童貞」、サガワキョウイチであった――。

続く
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