深夜。春雄は近所のゲオを訪れていた。入り口の自動ドアをくぐり、事務的に投げつけられる「いらっしゃいませえ」という店員の声を身に浴びつつ、レジカウンターの前を通りすぎる。一番目立つ場所にある最新作のコーナーは少し気になったものの、それでもちらりと目をやっただけで足は止めない。準新作コーナー、Vシネコーナーには目もくれず突き進み、あっという間に店の一番奥にある、暖簾で仕切られたコーナーの入り口にたどり着く。ゲオのマークが印刷された化繊製の暖簾を素早くくぐり、一瞬も足を止めることなく滑り込む。
 そこには、見慣れたいつもの光景があった。春雄の目の前に広がる、極彩色の世界。棚一面にところ狭しと並べられたAVの数々。さして広くもない空間にズラッと並べられたその数は、千タイトルくらいありそうに見える。多くのタイトルは、DVDケースを棚に縦に詰め込まれていて、背のタイトル部分しか見えない状態だが、一部の新作タイトルなどは表面が見えるよう平置きの状態になっている。つまり商品の並べ方は一般タイトルのコーナーと同じような状況だ。しかしAVのケースというものは普通、表面にせよ、裏面にせよ、背の部分にせよ、これでもかというくらい所狭しと女の裸体が掲載されている。そのため、この暖簾によって隔絶されたAVコーナーという空間は、女の肌とDVDケースの基調色とのコントラストばかりがやたらと目につく、極彩色の空間となってしまうのだ。
 そのコントラストにもう一つの彩りを添えるているのが、ある程度のタイトル群ごとに差し込まれている、ジャンル名が表記された黄色いタグだ。「人妻」、「素人ナンパ」、「アイドル」、「レズ」「SM」、「盗撮」、「スカトロ」、「女子校生」など、見る者の性的嗜好にきめ細かくマッチしたタイトルを提供すべく、数々のジャンルが用意されている。
 棚のところどころから突き出ているタグを眺めていると、不思議な感慨が湧いてくる。たとえば一般作品の棚は「SF」とか「アクション」とか「サスペンス」とかいったふうにジャンル分けされているわけだが、そもそもそれらの一般的なジャンル分けの基準からすれば、ここにあるタイトルなどは全て「AV」という分類タグで一括りにされてもおかしくはない。にもかかわらず専用の特設コーナーが用意され、その中で客の性的嗜好に合わせて細かくジャンル分けまでしてあるというのは、何やら人の業のようなものを感じさせる。いや、人の業というより男の性《さが》だろうか。そういえば女性向けAVも「イケメン」とか「不倫」とか「ガテン系」などとジャンル分けされていたりするのだろうか? いや、そもそも女性向けAVなどというものがあるのかどうか知らないが。
 しかし、目も眩まんばかりに細分化されたAVのジャンルだが、あいにくと春雄にとってはそのほとんどが「通過済み」のものであり、すでに過去のものといってよかった。今の春雄にとって最高の性的興奮の対象は、アナルである。
 アナル。
 それはいうまでもなく肛門のことだ。実はアナルは形容詞なので、肛門性交をアナルセックスと呼ぶのは正しいが、肛門のことをアナルと呼ぶのは間違いで、本当はアヌスと呼ぶのが正しいのだとか、さらにいうなら厳密にはアヌスですらなく、正しい発音はエイナスであるとかそういった御託は全てどうでもよいものだ。言葉を弄したところで要は肛門だ。
 アナルセックスの持つ、本来糞便を排泄するための穴に逆に異物を入れて塞いでしまうという背徳感や、一切繁殖につながらない性交であるというその無意味さが、なんとも言えず春雄を興奮させるのだった。普通のセックスなど笑止。アナルセックスにこそ、究極の快楽があるのだ。と、二十四歳童貞の春雄は考えていた。
 しかしだからといって、春雄は店で選ぶAVを毎回アナルものだけに限定しているわけではない。なぜならアナルものというのはAVの中でもややマニアックなジャンルなので、アナルものに限定してしまうと作品選択の余地が大幅に狭まってしまうからだ。すごく少ないというほどではないが、メジャーな部類ではないことは確かで、その証拠にAVコーナーで「アナル」というタグが出ていることはあまりない。というか春雄は一度も見たことがない。だいたいアナルものはいつも「SM」コーナーの中に紛れ込んでいるというのがお決まりのパターンだ。「スカトロ」ですらたまにタグを見かけるというのに、一体この扱いはどうしたことだろうと思う。
 その反対に、おそらく最も需要があると思われ、ほぼ全ての店のAVコーナーでタグを見かけるジャンルが「女子校生」ものだ。女子高生ではなく「女子校生」というところがミソだ。法律で18歳未満のAV出演は禁じられているので、そのへんへの自主規制的な配慮もあってか、AVのタイトルに「女子高生」の文字はあまり使われない傾向にある。アマゾンで検索すると、AVで「女子校生」をタイトルに含む商品に比べ、「女子高生」を含む商品の数は3分の1以下である。だがいずれにせよ、AVに出演してくるのは本物の女子高生ではなく、セーラー服を着込んだ成人女性にすぎないのだから、この自主規制に意味があるのかはよく分からない。ご多分にもれず春雄もこのジャンルが好きで、アナルものの次に好きなのがこの「女子校生」ものだ。
 それから「レズ」ものなども定番で、これもまた春雄が贔屓にしているジャンルだ。多くのAV作品において女優はオーバーリアクションをとりがちだが、春雄ほどの「上級者」ともなると、わざとらしく大きな声を出したり卑猥な言葉を連呼されても、「ああ、本気で感じてないんだな」とかえって演技が見え透いてしまい興醒めになるのだが、そこへいくとレズものは、勝手知ったる(?)女同士ということもあってか、責め方が通常のAVにありがちなやたら激しくピストンを繰り返す式の単調なものと違い、ねちっこい責め方で相手のツボを的確に刺激しているようで、責められている側の女優のリアクションもリアルに見える。
「アナル」ものと「女子校生」もの、そして「レズ」ものが好きということは、「レズ」の「女子校生」が「アナル」を責め合うAVがあれば春雄的に最高、ということになるはずだし、実際にそういう趣向のタイトルは存在する。しかし物事は単純にいかない。そもそも「女子高生」もののクオリティを決定づける「女子校生らしく見えるAV女優」というのが非常に少なく、大抵は良くて「明らかに成人と分かるが、女子校生という設定が一応許容できる」レベルの女優で、悪ければ「どう見ても無理があるだろ」というレベルの女優である。そして残念ながら、一番多いのはやはり無理があるレベルの女優だ。そしていくらAV女優とはいっても、「なんでもやる」人ばかりというわけではない。ただでさえ数が非常に少ない女子校生らしく見える女優で、その上女同士の絡みもアナル責めもOKという女優となると、実在するのかどうかも疑わしくなってくる。したがって「レズ」の「女子校生」が「アナル」を責め合うAV作品に出てくるのは、必然的に「無理がある」レベルの女優ばかりだし、そうした女優が着るセーラー服というのは、性欲を減退させる逆効果アイテムとしか思えない。
 ああ、どっかの女子校で本物の女子高生美少女レズカップルがいて、放課後人知れず体育館倉庫の中にこもってお互いの肛門にアナルビーズとか、アナルパールとか、アナルローターとか、アナルバイブとか……とにかく何か商品名の頭にアナルがつくグッズを突っ込み合ってキャアキャアいってたりしないもんだろうか。是非ともその様子をを跳び箱の陰から至近距離でのぞいてみたいし、できることなら乱入して自分も参加してみたいものだ。
 思考が犯罪方面に傾きかけたところで、我に返ってAV選びを続ける。現実的には好きなジャンルのうちひとつでも絡んでいるものであれば良しとして、コーナー全体を見渡してよさそうなものを三本ほど選ぶだけだ。春雄はいつも必ず複数本選んで借りていくようにしているのだが、それには理由がある。
 AVのクオリティなどというのは玉石混淆もいいところで、どちらかといえば石ころのほうが多いくらいだ。AVを選ぶときは大量のエロいDVDケースに囲まれて、これから家に帰ってどれで抜こうかなあと考えながらたくさんのタイトルをあちこちの棚からとっかえひっかえパッケージを眺めて比較検討し、熟慮に熟慮を重ねる。ようやく選び終えて家に帰り着いたときには、気分はすっかり高まりきってすでに半勃起状態である。そんな状態で、借りてきたAVを再生してみて外れだった時のみじめな気持ちはなんとも形容しがたい。そうした「事故」を防ぐための保険として、春男は必ず複数本のAVを借りていくことにしているのだ。一本目が外れだった場合はさっさと次のDVDに移るというわけだ。入念な吟味を重ねたものを三本も借りていけば、さすがに全部外れという可能性は低くなるというものだ。
 春雄は今日も定石通り、三本をピックした。

『赤点女子校生 秘密の補習授業』
『乳首いじり悶絶フル勃起』
『尻穴おっぴろげ~ 菊門デラックス』

『乳首いじり悶絶フル勃起』は春雄の好きな三大ジャンルとひとつもマッチしていないが、最終的にはジャンルよりもクオリティの高そうなものを優先した結果だ。なんのかんの言っても所詮はズリネタ。要は抜ければいいのだ。
 高まりきった気分でいそいそとレジへ向かう。最短距離でレジに向かおうとするも、通路の途中で茶髪で頭悪そうなカップルが目にとまる。2人揃ってだらしなくジャージを着た、茶髪で頭悪そうで、だるそうな感じの二十歳前後の男と、茶髪で頭悪そうで、貞操観念がなさそうな十代後の女。二人して狭い通路を塞ぐように突っ立っていて通れない。夢中になって下らない会話を続けていて当分立ち去る気配もない。
 この、バカップルが。こいつら、どうせつまんなくて頭悪そうな邦画とか借りて、なんか薄暗い感じの部屋に戻ってそれ見て、頭悪そうな感想言い合って、ぐだぐだしながら何となくやる気無さそうなセックスに移行して、二三十分くらいでさしたる盛り上がりもなく終わるんだろうな。それでもって彼氏は包茎で粗チンで早漏なんだろうな。自分だけさっさとイって満足しちゃうタイプで、彼女のほうは毎回あまり乗り気でないみたいな、そんなくそ面白くもない駄セックスなんだろうな。
 僻み根性丸出しの妄想といらだちを覚えつつ、しかたなく通路を少し迂回し、CDやゲームの棚の中を通ってレジについた。慎重に選んだAV三本と、ついでに適当に選んだ面白そうなアクション映画一本を躊躇いなくレジへ出した。
「四百円になります」レジの男が告げた。
 どうしようもなくエグいタイトルのAVが三本も入っているが別にもう慣れっこで、特に恥ずかしいようなこともない。相手の店員も慣れたもので、AVを貸し出すことなどそれこそ日常茶飯事だし、仕事だからやっているだけのことで、個別の客のプライバシーなどに微塵も興味はないのだ。今も、若い男の店員がこっちをチラッと見てちょっと笑ったような気がするがそれは気のせいだ。たぶん気のせいのはず。
 財布から小銭を取り出してていると、不意にすぐ後ろでクスクス笑う声がした。あのバカップルだ! いつの間にか春雄のすぐ後ろについて、会計の様子をのぞき込んでいた。2人で春雄の借りたAVを見てひそひそ喋っている。
 くっそ~、なんなんだこのウザいカップルは! 通り道邪魔したと思ったらこんどは後ろに回って人のことヒソヒソ笑いやがって! く……アホが! アホカップルが! お前らの借りるDVDくそつまんなくて猛烈に後悔しろ! どうせそのあとお前らくそつまんない盛り上がらないやる気ない惰性のセックスに移行するに決まってんだこのヴァカタレが! そんでもってこの野郎、お前らなんか駅弁ファックとかやろうとして、男が調子乗って対面座位で繋がったまま女抱えて立ち上がろうとして腕すっぽ抜けろ! 女床に後頭部強打しろ! 男チンポもげろ! 変な方向に折れろ! 折れて使えなくなってしまえ! アホアホアホアホー!
 頭の中でひとしきり罵りながら会計を終えると、足早に店を出て、まとわりつくいらだちを振り切るかのように自宅へと向かった。さっさと帰って自分の世界に浸りたい。
 ものの数分で築三十五年の自宅アパートにたどり着き、カンカンと音を立てながら金属製の階段を二階へと上がり、鍵も掛けていないドアを開けて自宅に入る。
 部屋に入ってテレビとDVDプレーヤーの電源を入れ、借りてきたDVDを早速差し込む。プレーヤーは自動的に再生を開始するが、春雄は画面には目もくれず、テレビの前に散らかっている本やらゲーム機やらiPadやらを綺麗さっぱりどかして何もないスペースを確保する。次に手慣れた職人のような手つきでバッバッバッと手早くティッシュ箱からティッシュを何十枚も取り出してはテレビの前の床スペースに無造作に隙間なく敷き詰めていく。無造作にとはいってもティッシュを満遍なく、隙間なく、十分なスペースに広げるよう注意を払っている。間違って床を汚してしまわないためには重要な作業だ。養生作業が終わって画面を見るころにはDVD冒頭の自社作品紹介がとっくに終わっており、『尻穴おっぴろげ~ 菊門デラックス』本編のメインメニューが表示されていた。
 春雄はおもむろにTシャツもズボンも下着シャツもパンツも脱ぎ捨て、次々と部屋の隅にまとめて投げ捨てて全裸となった。左手にDVDのリモコンを持ち、敷き詰めたティッシュを挟んでテレビと向かい合う位置にあぐらをかいて座り込んだ。もちろん、これから変態的切腹儀式を始めようというわけでも、変態的ヨガ呼吸トレーニングを始めようというわけでもない。これから始めるのはマスターベーションだ。春雄はAV本編の再生をスタートさせた。女優のインタビューシーンは問答無用で早送りし、絡みが始まったところで通常速度に戻す。気分が高まってきたところで、右手でゆっくりとペニスをしごき始めた。最初はソフトに握って、自然と固くなるに任せる。まずはペニスへのご機嫌伺いといったところだ。

 マスターベーションの神髄とは何か。
 例えば、射精する瞬間に好きな女の名前を叫ぶというのは自分の羞恥心を刺激して快感に変換する古典的マスターベーション技術だが、終わって我に返ったあとの虚無感は倍増する。セックスの最中相手の名前を呼ぶのとは違い、要は独り言だ。誰もいない空間に向かって「あけみーっ」などと叫んでから射精するのだ。端から見たらアホ丸出しである。この方法を実行するかどうかは、射精後に襲ってくる虚しさと、その代償として増幅する射精時の快感を計りにかけて決断することになるだろう。
 また、もっと手間のかかる例としては、陰毛を全部剃ってしまい、つるつるになった睾丸にローションを塗りたくり、左手で睾丸を弄りながら右手でペニスをしごくことで、いわゆる玉舐めのような快感が得られるという手法もある。しかし最初に陰毛をきっちり全部剃る準備の段階で相当な時間がかかるし、また定期的にメンテナンスしなければまた生い茂ってしまう。陰毛全剃り状態を維持するのはかなりの根気を必要とするだろう。
 そうした例を鑑み、突き詰めていくと、マスターベーションとは、得られる快感の質・量と、その代償となる手間・時間・羞恥心や虚無感とを比較検討し、最適な妥協点を探し求める作業であることに気づく。しかしその最適な妥協点とは人それぞれであり、春雄はいくつかの手法を試した後、概ね自分にとって、奇抜な方法は手間や終了時の精神的反動を考慮に入れると割に合わず、ごく一般的な方法が最も満足度のコストパフォーマンスが高くなると結論づけている。気分の高め方、竿の握りの強弱、しごき方のスピード・タイミングなど、基本的なマスターベーション技術を地道に高めていく主義だ。
 春雄の理想とするマスターベーション。それは、自らの性感の高まりを自在にコントロールし、射精に至る寸前の状態と適度な弛緩状態都との間を絶妙なバランス感覚で延々と行き来し、永続的な快楽の享受を可能とするマスターベーション。春雄はこれを、日本人ならではの和の精神に基づく「侘び寂びマスターベーション」と命名している。命名してはいる。が、その名称を誰かに話したことはない。他人に話すような話ではないからだ。

 ペニスをしごきつつそんな取り留めないことを考え、取り留めのないことを考えつつペニスをしごき、今日の「抜きどころ」となるシーンを探していた。結局、ちょっと太めでやけにメイクの濃い女優が四つん這いの体勢で、二人の男優に膣と肛門の両方にやたら振動音の大きい極太バイブを突っ込まれ猛ピストンされ、「ホワーッ! ホワアアーッ!」と喚きながらイッているシーンに決めた。人によっては「ホワーッ!」てなんだよと逆に萎えてしまいかねないシーンだが、春雄はあえてその意味不明な口走りをリアルな取り乱し方と受け取ることにした。
 高校のクラスメートに、気に入ったシーンで画面をいったん止めてから射精するのだなどと語っていた男がいたが、おそらくそういうのは少数派だろう。画面を止めれば肝心の音声も止まってしまい迫力大幅ダウンは免れない。春雄はもちろん止めない。ペニスをしごきながら気に入ったシーン周辺で何度も巻き戻しを繰り返し、いよいよ出すと決めたら、その時にはもうそのシーン流れが頭に入ってしまっているので、女優がイッているシーンに合わせて射精するよう上手く調整しながらしごいていく。しかし今日は、四回目に画面を逆戻ししている途中で、不覚にも急激に射精する感覚がこみ上げてきてしまった。
 しまった!
 こうなるともう止めることはできないし考えている暇もない。亀頭の先端から精子が飛び出す瞬間に向けて、大晦日の年越しもかくやの勢いで猛烈なカウントダウンが始まっている。
 5……!
 4……!
 いかん! 映像は早送りで逆戻りし続けている状態だが、春雄はとっさにDVDのリモコンを放り出し、急いでゴシゴシとペニスをこすり出す。
 すこすこすこすこすこすこすこすこ……。
 3……!
 この状態になったらもうこすらなくても射精してしまうのだが、ここでしっかりペニスを握ってこすらないと射精の時の気持ちよさが半減してしまうし、一回射精してしまうともう一度射精しても同じ気持ちよさは得られない。今はまさにこすらにゃ損々な状態。
 すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……。
 2……!
 すこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこすこ……。
 1……!
 すこすこすこすこすこすこすこすこあけましておめでとうございます!
「うっ」
 射精の瞬間、ペニスをほぼ真上に近い、75~80度くらいの角度に向ける。45度くらいでは距離が出すぎてティッシュの上に落ちないし、90度以上では自分の体にかかってしまう。射精しそうになった所でティッシュを亀頭に被せることもできるが、それでは興ざめなのだ。失敗すれば部屋にぶちまけてしまう。その緊張感が射精時の興奮と快感を増してくれると春雄は考えている。精液は見事な放物線を描き、床に敷いたティッシュの上に着地した。オリンピックなら拍手喝采金メダルといったところか。
「ふ~っ……」
 射精生して気が抜けたようになるが、後片付けは怠れない。ぱっぱとティッシュをどかす。さっさとやらないとティッシュの上に撒き散らした精液が床にまで染みてくる。大丈夫なようだったが、念のため布巾で床を拭っておく。いつものことだが、この後片付けがなんとも空しい。
 片付けが済んだところで全裸でごろりと横になり、しばし射精の余韻に浸る。そして、しみじみ思うのだった。
「あぁ~~……。ピロートークしてえ」
 マスターベーションでは無理だろう。
 今日はたまたま1本目があたりだったので、残りの日本はまた明日にでも見ることにする。このあと適当にゲームをやったり、AVと一緒に借りてきたアクション映画を見たりしてから寝た。

===(続く)===
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